そうだ、そうしよう

そうしの草紙

身に着けるべきは、主張の表現方法のうまさである

「からあげにレモンはかけるか否か」

 

結論から言えば大体かけて食べる方が多いのですが

別にからあげにレモンをかけて食べたいわけではないのです。

ついてくるから「コレかける?」という流れが発生するからであって

テーブルにレモン汁が置いてあれば好きな人は好きに使えば良いだけで終わってしまう話なのである。

 

さて、からあげにレモンがついている理由はさておき、この戦争の火種ともいえるレモンには人間関係を円滑にする効果があるのをご存知だろうか。

 

 

あなたは今居酒屋にいて、同席者は同じ職場の4人である。

いままさに注文したから揚げが届き、さっそくA君がからあげにレモンを絞った。

誰に断りもなくかけたA君はその行動からはっきりと自分勝手な人間であるか、衝動的な人間であると伺える。

「押すな」と書いてないボタンがあればとりあえず押すタイプでサメ映画にいたら2番目くらいに食われるタイプである。周囲を確認することがなく自滅するタイプでもあるが、別にそれが理由で嫌われることはなくむしろ快活で好かれることは多い。多分野球部でサードあたりを守っていたに違いない。

飲み物のオーダーは「みんなとりあえず生~?」と確認して率先して行動してくれるから彼がいないと料理がいつまでも決まらなかったりする。

当然A君には悪気はなく、「レモンがついてるからかけて食えってことだろ?」とたくましい肩をすくませてみるのだ。

 

それに対し怒るのはB君であり、怒りの矛先は他者への配慮を怠ったA君の行動への叱責なのだが、別にレモンが嫌いなわけではなくむしろ好きなタイプである。

比較的慎重な性格なので、からあげのレモンに対しては人一倍敏感な反応も見せるが、「レモンかける?」とは聞かず流れを見守るのが主だ。

在学中は卓球部に所属しており、レフトハンドのカットマンとして活躍、個人戦では奮わないもののダブルスでは上位に食い込み下級生からはコーチの次にアドバイスマンとして人気が高いタイプである。サメ映画では直接は食われないが、サメのテクニカルな攻撃で棚とかに挟まれたり、足に鎖が巻きついたりして死ぬタイプである。

仕事を順当に進めることに何よりも喜びを感じている。

 

一方C子は「え? じゃあもう一皿頼もうよ。どうせ食べちゃえるでしょ」と早々に追加のオーダーを済ますのだ。

別にB君はからあげがそのまま食いたいわけではなくA君を注意しただけなのだが、C子は男子のからあげ熱ってそういうものだよねと信じており、追加注文して両者にからあげを食わせれば解決すると信じ込んでいる。

その判断力の速さから姉御系として女子には慕われるが、男子にはやや敬遠されることがあるのはとうに経験済みだが、場がこじれることを第一に回避したいので今回の行動に出たのだ。

男性にはサバサバしていると思われるが普通に一途であり、ハンバーグはソースまでお手製だったりするのだが、それは女性にしか伝ってないし男性人気はさして高くないので普段から自身について悩みがち、だけど誰にも伝わらないタイプである。

サメ映画では終盤まで生き残るが、生存率は五分五分といったところ。

 

そしてD子は「え~B君ってからあげにレモンかけないタイプなの~?」と強引に終わりかけたこの事件を火種とし、論争を巻き起こそうとするタイプである。

ここまでのメンバーをみて当然のごとくぶりっ子が得意で女子からは嫌われるのに男子に好かれる女の名を欲しいままに、彼氏は途切れることもなく気がつけばあなたの知っている恋愛事情はこの1年で3人ほど移り変わっていたりする人生が凝縮されたタイプである。

意外にアウトドア派であり、計画を立てるのは得意で実行もお手の物、自分というキャラを理解しそれを主張することで自分の人生は円満に進んでいく。仕事はできなくても平気で世渡りし、昇給も早かったりするのがこのタイプ。

B君とからあげレモン談義で盛り上がるも、シレっとA君を持ち帰り翌朝にはしっかりジムに通っていたりするし、からあげは手もつけない。

サメ映画では冒頭で死んでいる。

 

 

全員の自己紹介がすんだところでこのからあげレモンで何を見るかというと

「自己主張の割合」である。

 

A君は細かいことは気にしないので6割

B君は周りの流れに任せるから4割

C子は周囲の協調性を考えて3割

D子は自分のやりたいようにしかやらないので8割

 

まあ理由と割合と行動原理は適当なので大きく気にしないで欲しい。

 

この割合からみても、損をするのは自己主張の低いBとCである。

Bは特に必要のないからあげを食べる羽目になり、Cは必要のないオーダーをしたとまでいわれる可能性もある。

なぜこんな悲しいことがおきるのだろうか。からあげにレモンをかけただけなのに。

勝手にやってるやつらが何食わぬ顔をして、周囲を気遣う二人が割を食う。なんとも不思議な話である。

 

自己主張が強いからといって人に嫌われることはあるだろうか?

おおむね「そういう人ね」と許容されていることが多いだろう。

大体法律や条例さえ破ってなければ許されることばかりで、からあげにレモンをかけるかどうかを気にしてヒヤヒヤしているのは徒労なのだ。

 

結局それ以上からあげレモン談義は盛り上がることもなく、AとDは夜の街へ消え、BとCはそれぞれの岐路につくだけである。

 

 

どうでも良いが、私はレモンを絞ってかけるくらいならそのまま齧ってもいいなと思うのだが、「え、そういうタイプ~」となるのも面倒なので置いといて、中盤残っているレモンを見つからないようにパクっと齧ってデザートに備えるタイプです。